疾患
首・肩
五十肩
五十肩は、多くの人が経験する可能性のある身近な症状ですが、その痛みや不便さは生活の質を大きく低下させます。ここでは、五十肩の正体から、その経過、治療法、ご自身でできるケアまでを詳しく解説します。
五十肩とは?
正式名称は「肩関節周囲炎」
一般的に「五十肩」と呼ばれていますが、医学的な正式名称は「肩関節周囲炎(けんかんせつしゅういえん)」です。その名の通り、肩の関節を覆っている「関節包(かんせつほう)」や、その周りの筋肉、腱(けん)といった組織に炎症が起こり、痛みや動きの制限が生じる病気です。
なぜ「五十肩」と呼ばれるのか?
主に40代から60代に発症することが多いため、この呼び名が定着しました。特定の原因がなく、加齢に伴って発症することが特徴です。
五十肩の主な症状
五十肩の症状は、大きく分けて「痛み」と「動きの制限」の2つです。
肩の痛み
- 安静時痛:じっとしていても肩が痛む。
- 夜間痛:夜、寝ているときや寝返りをうったときに痛みが強まり、目が覚めてしまうことがある。
- 運動時痛:腕を上げたり、後ろに回したりするなど、特定の動きで鋭い痛みが走る。
肩の動きの制限(可動域制限)
炎症によって関節が固まってしまい(拘縮:こうしゅく)、思うように腕を動かせなくなります。
- 髪をとかしたり、結んだりできない(結髪動作)
- 帯やエプロンの紐を後ろで結べない(結帯動作)
- 服の着替え(特に上着の袖に腕を通す動作)が困難になる
- 高い場所にある物を取れない
五十肩の経過(3つの病期)
五十肩は、発症から回復まで、一般的に以下の3つの時期を経て進行します。この時期を理解することが、適切な対処につながります。
炎症期(急性期):痛みが最も強い時期
- 期間:数週間~数ヶ月
- 特徴:何もしなくてもズキズキと激しく痛むのがこの時期です。特に夜間痛が強く、眠れないことも少なくありません。
- 対処法:無理に動かさず、安静にすることが第一です。痛みが強い場合は、冷やす(アイシング)と楽になることもあります。
拘縮期(慢性期):肩が固まる時期
- 期間:数ヶ月~1年程度
- 特徴:激しい痛みは少し和らぎますが、肩関節が固まって動かせる範囲が著しく狭くなります。「凍結肩(Frozen Shoulder)」とも呼ばれる状態です。
- 対処法:この時期からは、無理のない範囲で少しずつ動かすリハビリテーション(運動療法)が重要になります。温めると筋肉の緊張がほぐれ、動かしやすくなります。
回復期(寛解期):少しずつ動きが戻る時期
- 期間:数ヶ月~数年
- 特徴:痛みがさらに軽くなり、固まっていた肩の可動域が徐々に改善していきます。
- 対処法:引き続き、積極的にリハビリテーションを行い、可動域を広げていくことが大切です。
五十肩の診断と治療
診断方法
問診で症状の経過を聞き、肩の動きの範囲を調べることで、多くは診断がつきます。他の病気(腱板断裂など)との区別のため、レントゲンや超音波(エコー)、MRIなどの画像検査を行うこともあります。
治療の基本
五十肩の治療は、薬物療法やリハビリテーションなどを組み合わせた保存療法が基本です。上記の病期に合わせて、適切な治療を選択します。
- 薬物療法
- 内服薬・外用薬:痛みや炎症を抑えるための消炎鎮痛薬(飲み薬、湿布、塗り薬)が処方されます。
- 注射:痛みが非常に強い場合や、飲み薬で効果が薄い場合に、ステロイドやヒアルロン酸などを関節内に注射することがあります。高い鎮痛効果が期待できます。
- 理学療法・運動療法(リハビリテーション)
- 運動療法:治療の核となるものです。拘縮期以降、固まった関節を動かすために行います。振り子のように腕をたらして揺らす「コッドマン体操」や、壁を使って腕を上げていく運動などが代表的です。専門家の指導のもと、正しい方法で行うことが重要です。
- 温熱療法:肩を温めて血行を促進し、痛みを和らげ、筋肉の緊張をほぐします。
- 手術療法 保存療法を長期間行っても改善が見られない場合や、日常生活への支障が非常に大きい場合に検討されます。関節鏡(内視鏡)を使った、体への負担が少ない手術が主流です。
自宅でできるセルフケアと注意点
痛みを和らげる工夫
- 寝るときの姿勢:痛い方の腕の下にタオルやクッションを敷き、少し腕を上げた状態で寝ると楽になることがあります。
- 温める・冷やす:炎症期で熱を持っている場合は冷やし、拘縮期で動かす前には温めるのが効果的です。
無理は禁物
「動かした方が早く治る」と信じて、痛みが強い時期に無理に動かすのは逆効果です。炎症を悪化させてしまう可能性があります。必ず痛みのない範囲で行いましょう。
専門医への相談が重要
五十肩は自然に治ることもありますが、放置すると肩の動きが元に戻らないまま固まってしまう(後遺症)こともあります。症状が続く場合は、自己判断せず、必ず整形外科を受診して適切な診断と治療を受けるようにしてください。